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大阪地方裁判所 平成6年(ヨ)1538号 決定

債権者

竹田吉夫

右代理人弁護士

豊川義明

森信雄

越尾邦仁

小林徹也

債務者

日本通運株式会社

右代表者代表取締役

濱中昭一郎

右代理人弁護士

高野裕士

主文

一  本件申立てを却下する。

二  申立費用は債権者の負担とする。

理由

第一申立て

一  債権者が、債務者に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は債権者に対し、平成六年四月二一日以降本案判決確定に至るまで、毎月末日限り月額金三九万〇八二九円を仮に支払え。

三  申立費用は債務者の負担とする。

第二事案の概要

一  債務者は、貨物運送を業とする株式会社であるが、債権者は、平成二年九月二〇日頃から大阪市港区築港二丁目六番一五号住友倉庫内のキャノン販売株式会社物流センター(以下「物流センター」という。)内の債務者の作業所に自己の保有する軽貨物自動車を持ち込んで、キャノン製品の宅配・仕分け等に従事してきた。債務者課長は、平成六年三月二二日、債権者に対し今後仕事に来なくてよい旨述べた。(争いがない。)

二  債権者は、右業務への従事は、債権者と債務者との間の労働契約に基づくものであり、右平成六年三月二二日の仕事に来なくてよい旨の意思表示は、正当な理由のない解雇で、解雇権の濫用であって無効であると主張し、労働契約上の地位の保全と賃金の仮払いを求めるが、債務者は、右業務については、債務者は申立外三光グループと作業請負契約を締結していたもので、債権者は三光グループの使用人かもしくはさらに下請負をしていたもので、債務者と債権者との間には雇用契約はなかったとして争う。

三  主要な争点

債権者と債務者との間に労働契約があるか。

第三当裁判所の判断

一  本件疎明資料、審尋の全趣旨並びに当事者間に争いのない事実を総合すると、次の事実を一応認めることができる。

1  物流センターにおける債務者の業務は、キャノン倉庫より出庫された貨物の仕分け及び配送であるが、物流センターの債務者の作業所では、債務者課長はじめ債務者社員、債務者車両一〇から一五台のほか、株式会社大阪真正の軽自動車七台、三光グループの軽自動車約九台、紀北運送等の運転者特定の傭車七台が業務に従事していた。配送業務は、全国に債務者路線便で配送するもの、大型コンピュータ等のチャーター便(据え付け、設置作業も含む。)、大阪府下等への配送があり、チャーター便及び大阪府下、近畿圏県下への配送は、債務者の車両及び紀北運送等の傭車が、大阪市内(浪速区以南を除く)、吹田市、東大阪市への主に小物の宅送は三光グループの軽自動車が、住之江区、住吉区、大正区、港区、東住吉区、堺市等への主に小物の宅送は株式会社大阪真正の軽自動車が当たっていた。また、配送に先立ち、キャノンの倉庫から出庫された貨物を、午後一時から四時頃まで、債務者社員二名、三光グループ一から二名で、午後四時頃からは債務者社員一〇から一五名、株式会社大阪真正一名、三光グループ三から七名で、大阪府下や阪神圏への方面別、全国配送するための債務者路線便、大型貨物に仕分けを行っていた。

2  瀬角保典(以下「瀬角」という。)、高橋正泰及び福原司朗は、従来高山運送の従業員として債務者のキャノン製品の配送に従事していたものであるが、平成二年六月頃から高山運送で給料の遅配等の不祥事があったため、平成二年八月、右三名で三光グループを発足し、キャノン製品の配送に従事するようになった。同年九月下旬、債権者及び原田が三光グループに加わり、その後も人数の出入りがあり、約八名となっていた。三光グループへの人の出入りについては、その人選は、三光グループで行い、債務者が関与することはなかった。債権者も、高橋の紹介で、原田と共に、焼鳥屋で、右瀬角、高橋、福原の三名と会い、債務者の業務に従事するように誘われ、その場で決まっており、債権者が債務者との間に労働もしくは仕事の条件の交渉や契約の締結行為をしたことはない。三光グループ代表者瀬角と債務者は、平成四年三月一五日付で、作業請負契約書を作成している。

3  三光グループのメンバーは、配送にあたる者は、ほとんどが午前八時頃までに物流センターの債務者の作業所にトラックをつけて作業に備えていたが、仕事の都合で一一時頃に出て来たり、前日に荷積みして自宅に持ち帰り、翌日物流センターに立ち寄らず、直接自宅より配送に出発する者もあった。債権者は、いつも午前八時頃までに作業所の前に軽貨物自動車をつけ、午前八時に作業所があくと、前日仕分けされた荷物の荷積みを約四〇分間行い、一二時頃まで配送していた。債権者が配送に使う軽貨物自動車は債権者所有車の持込みで、外側には、債務者名は表示されず、竹田運送、そして債務者の指示で三光グループとも書かれていた。ガソリン代、修理費、車検費用は、債権者負担であった。一日二から三回は、配送中に配達時間指定や急な配送等の指示があり、債務者から指示を受けた瀬角がポケットベルで連絡指示するが、呼び出しは債務者従業員に依頼し、また、急ぐときは債務者従業員が直接連絡指示を行うこともあった。ポケットベルで呼び出された者は、物流センターに電話をして債務者の係員に取り次いでもらい、連絡を受けていた。三光グループのメンバーは、配送経験者が多く、瀬角が配送先不在時の処理を説明する程度で配送業務に従事したが、経験のないメンバーには瀬角が最初添乗して指導した。債務者においては、配送時の運行経路につき運行管理を行ってはいなかった。通常の配送業務の三光グループ内での割り振りは、配送地域(債権者は中央区)別となっていたが、誰がどの地域を配送するかは債務者が定めたものではなく、三光グループ内で定められていた。三光グループに対し配送を依頼した荷物のうち、一部大きさ等により積み方の効率が悪くなる場合には、個建て料金制のため、債権者らにおいてこれを積まずに拒否することもあった。また、三光グループのメンバーが出てこられない場合は、債務者に連絡し、債務者が瀬角もしくは三光グループのメンバーに伝えて、三光グループの他のメンバーが、出てこられない者の運搬を適宜分配したり、効率の悪い荷物は債務者の南港の集荷場に持って行って債務者の路線に乗せて配る形で配送を拒否したりしていた。また、三光グループの川本(平成五年月六月頃にやめている。)は、作業にあたって、妻に手伝わせていたが、これについて債務者が異議を述べたり、また、三光グループが右妻の分の報酬を請求したり債務者が支払ったことはない。

4  仕分け作業は、作業所内の一定の場所に置かれた債務者が配送を請け負う一日約一六〇〇個の荷物を右1のとおり配送地域別に仕分けてパレットに乗せる作業であるが、日によって個数が違うため、債務者の指示により、瀬角が人数や時間を調整して、三光グループから従事する人数や時間は日によって異なっていた。債権者は、配送終了後は車の中で食事をとったり、喫茶店で過ごしたりして、午後三時半ないし四時からは仕分け作業に従事するが、ポケットベルで呼び出されて一時頃から仕分けを行うこともあり、仕分け作業はせずに帰宅することもあった。三光グループのメンバーの中には、全く仕分け作業をしない者もあった。仕分け作業は、配送作業に先立つ前段作業であるが、山積みされている荷物から配送を担当する者がその荷物だけを取り出すことは効率上も不可能であり、債務者従業員、三光グループ、大阪真正のメンバーが一緒に作業を行っていた。仕分け作業の方法は、ほとんど決まっているので、逐一指示は必要ないが、製品の箱が破損している場合などには、三光グループのメンバーも債務者の作業班長の指示を仰ぎこれに従っていた。また、債務者のフォークリフトを三光グループのメンバーが使用することもあった。仕分け作業が午後七時以降に及ぶときは、三〇分の夜食休憩をとるが、債権者は、債務者従業員の指示で、債務者の車両で、債務者従業員の分を含めて夜食を買い出しに行くこともあった。債務者ではキャノンからの防犯上の要請により、作業中は、三光グループのメンバーにも債務者の制服の着用を指示しており、全員着用して作業していた。

5  三光グループのする業務の報酬は、配送業務においては配達地域別に個建てで(中央区一個当り二七〇円)、チャーター便は協議により決められることとなっており、仕分け作業は一時間あたり一五〇〇円と定められていた。なお、仕分け作業の料金は、誰がいくら仕分けしたとの把握が困難で、車持ち込みの者が従事することを配慮し、配送作業との公平をも保つため、右のような時間建ての料金が設定されたものである。右料金は、同様に債務者と請負契約書を作成している株式会社真正も同様である。三光グループに払われる報酬は、約二割が仕分け作業分で、約八割が配送分である。

そして、瀬角が、当月二〇日締めで、配送地域、個数、仕分け時間数、チャーター便によりメンバーごとに計算して、総請求金額を税込合計金額とした請求書を債務者に提出し、翌々月末に瀬角の銀行口座に一括して振り込まれ、債務者は、その支払を下請費用及び消費税として処理していた。瀬角は、その内から、債務者の定めた報酬よりも低い額(中央区一個当たり二二〇円、仕分け作業一時間当たり一三五〇円)で同様の方法で各メンバーごとに計算した金額を、給料支払明細書に明細を記載して渡していた。右給料支払明細書には、右報酬の計算により、総支払支給金額が記載され、差引金額としては、ポケットベル使用料、さらに平成六年三月分からは、五パーセント引き(日通では、キャノンからの五パーセント値引きの要求に応じ、請負業者に対して同様の協力を求めていた。)が記載されているが、社会保険料及び所得税、地方税の欄には記載がなく、これらは差し引かれていない。なお、債権者は、事業者として所得税の申告、納付をしていない。

6  三光グループと債務者との間では、作業中の事故については、三光グループが責任をもつことになっており、平成五年七月頃、三光グループの佐伯が作業中住友倉庫キャノン物流センターのシャッターを破損したことがあったが、うち三万円を佐伯が瀬角に支払い、結局三光グループが約二七万円修理費用全額を支払い、平成六年一月下旬にも、三光グループのメンバーが顧客の玄関のガラスを割ったことがあったが、三光グループにおいて処理している。ただし、配送中及び仕分け作業中のキャノン製品の紛失及び毀損の事故については、債務者において現場で毀損したとして交換してもらう等の処理で、三光グループは責任をとらなかったこともある。

7  平成三年春頃、三光グループの、債権者と瀬角の間にトラブルがあり、債権者は債務者課長北浦一秀に仲介を依頼しに行ったが、手土産に手渡したケーキの下に現金五〇万円がはいっていて、数日後返還されたことがあった。

平成六年二月頃、三光グループ内で、瀬角が各自に渡す金額が、各人によって単価が違うとの不満が出、三光グループで話し合いがもたれたが、瀬角が課長と相談した結果である旨述べたとして、債権者は、同月一〇日、債務者課長北浦一秀に対し、債務者従業員、三光グループのメンバー、キャノン販売の社員等に聞こえるところで、癒着してインチキしとるとか、社長に手紙を書くぞとか大声を出した。

三光グループ内で右のもめごとがあり、また、瀬角が同年三月初め頃から物流センターへ出てこなくなり、債務者は、三光グループへの業務の依頼をやめることとし、同年三月二二日、瀬角に対しては電話でその旨通知し、他の三光グループのメンバーには北浦が物流センターで、三光グループを解体し、債権者以外の希望者については、大阪真正に移籍するよう、債権者にはおりてもらうと告知し、債権者の「くびですか」との質問に「そうだ」と答えている。三光グループの同年二月二〇日締め三月末日支払の報酬については、瀬角が各メンバーに渡す分を各人ごとに封筒に入れて持参したものを、債務者において各人に手渡し、同年三月二〇日締め四月末日支払の報酬については、瀬角が出てこないため、債務者において、三光グループの高橋と債務者の従業員にの(ママ)単価で計算させ、債務者が直接メンバー各人の口座に振り込んで支払った。

二  そこで、本件につき債権者と債務者の間に雇用関係があったか否かについて判断するに、右一の事実によれば、三光グループは、もともとは、債務者から配送業務を請け負っていた運送業者の従業員であった者が、引続き債務者の業務を行うため結成したものであり、平成四年三月三光グループと債務者の間で作業請負契約書を作成しているが、その前後で債務者と三光グループの関係に変化はないこと、三光グループには人数の出入りがあるがその人選については三光グループにおいて行い、債務者は直接関与していないこと、債権者が債務者の仕事を始めるにあたっても、三光グループの瀬角らと話をして決定したもので、債権者が債務者との間に直接契約書を交わしたり、労働者としての採用を告知されたなどの行為がないのはもとより、債権者と債務者との間に直接契約内容もしくは労働条件等の交渉をしたこともないこと、三光グループに対する報酬の計算方法は、前記のとおりであるが、一括して瀬角の口座に振り込んで支払われ、これを三光グループにおいて各メンバーにそのまま支給するのではなく、瀬角が一部差し引いて(瀬角が取得するほか、三光グループで負担した制服等の費用や、事故の損害填補分に当てられたと解される。)計算したものがメンバーに支払われていたこと、三光グループが行う業務のメンバーへの割り振りは、三光グループ内で決められ、債務者は関与していないこと、三光グループに依頼された荷物のうち、車両に積めないものの他、積めても効率が悪い場合にはこれを積まずに拒否することもあったこと、三光グループには妻に配送仕分け作業を手伝わせていた者もあったが、これについて債務者が異議を述べたり妻の分の報酬を支払ったことはないこと、債務者において配送の運行経路につき運行管理を行っていないことなどの事実を総合すれば、債権者は債務者の業務に従事していたとはいえ、それが、債務者との雇用関係に基づくものとはいい難い。

債権者と債務者の間に雇用関係があるか否かは、契約の形式のみによらず、実態に即して、実質的賃金の支払、使用従属関係の存否を基準にして判断するのが相当であり、右一に認定の事実によれば、債権者は、毎日午前八時までに債務者の作業所に出て荷積み、配送にあたり、配送途中にも連絡指示のためポケットベルの呼び出しを受け、作業所に電話をして債務者従業員の指示を受けることもあり、仕分け作業においては債権者は債務者の従業員とともに業務を行っていたものであって、債務者のフォークリフトを使用したり、債務者従業員の分を含めて夜食の買い出しに行ったこともあり、また、仕分け作業につき債務者が三光グループに支払っていた報酬は、従事時間により計算されていたものであって、以上の点においては実質的な賃金の支払、実質的使用従属関係があったともみられる部分もあるが、配送先や配送指定時間に関する連絡指示は請負における注文においても必要なものであり、ポケットベルによる呼び出しやこれに応じた電話連絡に応対する者が債務者従業員であっても、瀬角から依頼を受け、もしくは急ぐため直接指示していたものともいえ、また、仕分け作業を配送担当者ごとに分けず、債務者従業員が配送するものも三光グループ等が配送するものも一緒に作業していたのは、これを区別することが効率上困難なためにすぎず、そうするとこれにともない債務者のフォークリフトを使用したり夜食の買い出しに行ったりすることがあっても、ただちに雇用関係特有の使用従属関係ということもできず、また、報酬も、誰がいくつの仕分けをしたかを把握するのが困難なため時間建ての出来高制に設定されたもので、仕分け作業は、その性質上及び報酬の面からも、配送業務に付随するものにすぎないので、これらをもって、債権者と債務者との間の賃金の支払及び実質的使用従属関係を一応にせよ認めるには足りない。

債務者は瀬角が三光グループの伝票整理に従事した時間についても報酬を支給しており(〈証拠略〉)、また、債務者が三光グループへの業務依頼を中止するにあたっては、右一7に一応認定したとおり、債務者課長北浦が、三光グループを解体するとか希望者は大阪真正に移籍するようにとか、また、債権者にはおりてもらうとか発言し、また、三光グループの平成六年三月末日払いの報酬を各メンバーに対し直接振り込んで支払うなどしており、債権者はこれらをもって、債務者が、三光グループに対して単なる請負関係を越えた支払関係にあり、債権者らメンバーに対しその身分を直接決定し支配する関係にあること、債権者と債務者の間の雇用関係を示すものであると主張し、なるほどこれらの事実は三光グループに対する支配に近いとも解され得る債務者のかなり強い立場を窺わせるものではあるが、仕分けをしていない者についてその報酬請求がなされた場合にも支払われる(〈証拠略〉)など三光グループへの報酬が瀬角の計算、請求に基づき債務者において検討を経ずにルーズに支払われていた面があること、三光グループは債務者の業務を請け負うために結成されたもので、債務者の業務の依頼の中止はほとんどグループの解体につながると容易に解され、報酬の直接支払や大阪真正への移籍の措置は、債務者が許容できるとして判断した範囲で三光グループのメンバーの便宜を計ったものとも解することができ、これらをもって、三光グループのメンバーと債務者との間に雇用関係があったということはできない。

三  結局、債権者の(ママ)債務者の間の雇用契約は、一応にせよ、これを認めるに足りず、債権者の(ママ)債務者の間の雇用契約を前提とする本件申立ては、被保全権利の疎明がないので却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 関美都子)

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